『
万葉集』には、「旅寝」「旅人」などの複合語を含めると、百例を越す用例が見られる。
「羇旅歌」「羇旅作」「羇旅発思」等の題詞や分類標目のもとに、数多くの旅の歌が載せられている。
タビという状況が非日常の不安定な状況であり、歌によって魂の安定を幻想する必要があった。
古代におけるタビという語の意味領域は、現代の私たちの「旅・旅行」よりもはるかに広かった。
磐代の浜松が枝を引き結びま幸くあらば また還り見む (巻2-141)
家にあれば笥に盛る飯を〔
草枕〕旅にしあれば 椎の葉に盛る (巻2-142)
秋萩を 妻問ふ 鹿 こそ 独り子を 持たりと言へ
鹿児じもの 吾が独り子の (
草枕)旅にし行けば
竹玉を 繁に貫き垂り 斎瓮 (
いはひへ ) に 木綿 (
ゆふ ) 取り 垂 (
し ) でて
斎 (
いは ) ひつつ 吾 が思ふ吾子 ま幸くありこそ (巻9-1790)
〔旅人〕の宿りせむ野に
霜降らば 吾 が子羽ぐくめ 天 の 鶴群 (巻9ー1791)
〔
草枕〕=草を結んで枕として野宿すること。旅寝。旅枕。旅の仮寝。