奥の細道の「宿」

      『奥の細道』で「宿」の表現されている部分

①その日ようよう早加(そうか)といふ宿(しゅく)にたどり着(つ)きにけり。

②卅日(みそか)、日光山(にっこうざん)の梺(ふもと)に泊(とま)る。
あるじのいいけるやう、「わが名を仏五左衛門(ほとけござえもん)といふ。よろず正直(しょうじき)をむねとするゆえに、人かくはもうしはべるまま、一夜(いちや)の草の枕(まくら)もうとけて休みたまへ」といふ。

那須(なす)の黒ばねといふ所(ところ) 遥(はるか)に一村(いっそん)を見かけて行(ゆ)くに、雨降(ふ)り日暮(く)るる。農夫(のうふ)の家に一夜(いちや)をかりて、明(あく)ればまた野中(のなか)を行(ゆ)く。

須賀川(すかがわ)の駅に等窮(とうきゅう)といふものを尋(たず)ねて、四、五日とどめらる。

⑤この宿(しゅく)のかたわらに、大きなる栗(くり)の木陰(こかげ)をたのみて、世(よ)をいとふ僧(そう)あり。

⑥月の輪(わ)のわたしを超(こ)えて、瀬(せ)の上といふ宿(しゅく)に出(い)づ。

⑦その夜飯塚(いいづか)にとまる。
温泉(いでゆ)あれば湯(ゆ)に入(い)りて宿(やど)をかるに、土坐(どざ)に筵(むしろ)を敷(しき)て、あやしき貧家(ひんか)なり。灯(ともしび)もなければ、ゐろりの火(ほ)かげに寝所(ねどころ)をまうけて臥(ふ)す。夜(よる)に入(い)りて雷(かみ)鳴(なり)、雨しきりに降(ふり)て、臥(ふせ)る上よりもり、蚤(のみ)・蚊(か)にせせられて眠(ねむ)らず。
持病(じびょう)さへおこりて、消入(きえいる)ばかりになん。短夜(みじかよ)の空(そら)もやうやう明(あく)れば、また旅立(たびだち)ぬ。なお、夜(よる)の余波(なごり)心すすまず、馬(うま)かりて桑折(こおり)の駅(えき)に出(い)づる。
名取川(なとりがわ)を渡(わたっ)て仙台(せんだい)に入(い)る。旅宿(りょしゅく)をもとめて四五日(しごにち)逗留(とうりゅう)す。
⑨江上(こうしょう)に帰りて宿(やど)を求(もと)むれば、窓(まど)をひらき二階(にかい)を作(つく)りて、風雲(ふううん)の中(うち)に旅寝(たびね)するこそ、あやしきまで、妙(たえ)なる心地(ここち)はせらるれ。
  松島(まつしま)や 鶴(つる)に身(み)をかれ ほととぎす 曽良(そら)
よは口をとぢて眠(ねむ)らんとしていねられず。

⑩思ひがけずかかる所(ところ)にも来たれるかなと、宿(やど)からんとすれど、さらに宿(やど)かす人なし。
漸(ようよう)まどしき小家(こいえ)に一夜(いちや)をあかして、明(あく)ればまたしらぬ道まよひ行(ゆ)く。
心細(こころぼそ)き長沼(ながぬま)にそふて、戸伊摩(といま)といふ所(ところ)に一宿(いっしゅく)して、平泉(ひらいずみ)に
⑪南部道(なんぶみち)遥(はるか)に見やりて、岩手(いわで)の里に泊(とま)る。

⑫大山(たいざん)をのぼつて日すでに暮(くれ)ければ、封人(ほうじん)の家(いえ)を見かけて舎(やどり)を求(もと)む。 三日(みっか)風雨(ふうう)あれて、よしなき山中(さんちゅう)に逗留(とうりゅう)す。
  蚤(のみ)虱(しらみ) 馬(うま)の尿(ばり)する 枕(まくら)もと

年老(としおい)たる男(おのこ)の声も交(まじり)て物語(ものがたり)するを聞けば、越後(えちご)の国新潟(にいがた)といふ所(ところ)の遊女(ゆうじょ)なりし。
  一家(ひとつや)に 遊女(ゆうじょ)もねたり 萩(はぎ)と月

⑭「これより五里(ごり)いそ伝(づた)ひして、むかふの山陰(やまかげ)にいり、蜑(あま)の苫(とま)ぶきかすかなれば、蘆(あし)の一夜(ひとよ)の宿(やど)かすものあるまじ」といひをどされて、加賀(かが)の国に入(い)る。

⑮大聖持(だいしょうじ)の城外(じょうがい)、全昌寺(ぜんしょうじ)といふ寺にとまる。

曽良(そら)も前の夜この寺に泊(とまり)て、
  終宵(よもすがら) 秋風(あきかぜ)聞くや うらの山
と残(のこ)す。一夜(いちや)の隔(へだ)て、千里に同じ。

  ☆3月27日から 9月6日まで157日間の夜をどこでどのように過ごしたか、詳しくは分からない。文中に記され
  ている上掲の20カ所から推察するしかない。なお、『曾良随行日記』を参照する必要はある。

 ☆「宿」に関する記述は『笈の小文』には「只一日のねがひ二つのみ。こよひ能(き)宿からん、草鞋のわが足によろしきを求めんと計(ばかり)はいさゝかのおもひなり」とある。

  宿泊良否評価  ◎ 〇ー△ ×?
1 ー
2 ◎ 人間性賞賛
3 〇
4 〇 長期滞在許される。
5 ー
6 ー
7 ×
8 〇
9 ◎ 家の造りがいい(松島堪能)
10△
11ー
12×快適ならず(かえって以外な句ができる)
13〇× 不遇者をどうしてもやれなかった。
14? 事前に脅されたが、結果不明。
15〇
16〇