今月の古典講座は源氏物語「朝顔」を読む

  朝 顔
源氏物語』五十四帖の巻名。第20帖。巻名は光源氏朝顔の歌「見しおりのつゆわすられぬ朝顔の花のさかりは過ぎやしぬらん」「秋はてて露のまがきにむすぼほれあるかなきかにうつる朝顔」による。朝顔槿(むくげ)」の古称でもあることから「槿(あさがお)」と表記されることがある。 この巻のヒロインともなっている作中人物をも指す。桃園式部卿宮の姫君。
 
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    与謝野晶子訳「朝顔」巻頭
 斎院は父宮の喪のために職をお辞しになった。源氏は例のように古い恋も忘れることのできぬ癖で、始終手紙を送っているのであったが、斎院御在職時代に迷惑をされた 噂 ( うわさ ) の相手である人に、 女王 ( にょおう ) は打ち解けた返事をお書きになることもなかった。九月になって旧邸の桃園の宮へお移りになったのを聞いて、そこには御 叔母 ( おば ) の 女五 ( にょご ) の 宮 ( みや ) が同居しておいでになったから、そのお見舞いに託して源氏は訪問して行った。故院がこの御 同胞 ( はらから ) がたを懇切にお扱いになったことによって、今もそうした方々と源氏には親しい交際が残っているのである。同じ御殿の西と東に分かれて、老内親王と若い前斎院とは住んでおいでになった。 式部卿 ( しきぶきょう ) の宮がお 薨 ( かく ) れになって何ほどの時がたっているのでもないが、もう宮のうちには荒れた色が漂っていて、しんみりとした空気があった。女五の宮が御対面あそばして源氏にいろいろなお話があった。老女らしい御様子で 咳 ( せき ) が多くお言葉に混じるのである。姉君ではあるが太政大臣の未亡人の宮はもっと若く、美しいところを今もお持ちになるが、これはまったく老人らしくて、女性に遠い気のするほどこちこちしたものごしでおありになるのも不思議である。
「院の陛下がお 崩 ( かく ) れになってからは、心細いものに私はなって、年のせいからも泣かれる日が多いところへ、またこの宮が私を置いて行っておしまいになったので、もうあるかないかに生きているにすぎない私を 訪 ( たず ) ねてくだすったことで、私は不幸だと思ったことももう忘れてしまいそうですよ」
朝顔」巻の一図である。源氏絵としてしばしば絵画化される場面。場所は二条院。季節は冬。光源氏32歳。いわゆる「雪まろばし」の場面。雪が降り積もり、月が照り映える夜、光源氏は、女の童〈めのわらわ〉たちが雪に興ずるさまを眺めながら、藤壺朝顔・朧月夜・明石の君・花散里のことなどを、紫の上に語るのであった。室内にいるのが光源氏と紫の上。庭には童女たち。空には満月。池には氷が張り、汀に鴛鴦がいる。松には雪が積もっている。
 ★筋の発展はあまりない。源氏と朝顔の恋心のずれ、心理描写の粘着力を読み取る