『万葉集』の「くれなゐ」歌


    万葉の「紅」歌  【くれなゐ】
 キク科ベニバナ属の紅花(ベニバナ)   アジア原産の一年草で、日本には、飛鳥時代に渡来。
 紅花は染色に使われ、朱華(はねず)、紅(くれない)、黄丹(おうに)などの色を作り出す。

紅(くれない)を詠んだ歌 朱華(はねず)や紅(くれない)に染色された衣服は、灰で洗濯すると色落ちがある。そのことから、「うつろう」「はかなし」にかかる。『源氏物語』にはこれが末摘花(すえつむはな)として登場する。

0683: 言ふ言の畏き国ぞ紅の色にな出でそ思ひ死ぬ

2655: 紅の裾引く道を中に置きて我れは通はむ君か来まさむ

2763: 紅の浅葉の野らに刈る草の束の間も我を忘らすな

2828: 紅の深染めの衣を下に着ば人の見らくににほひ出でむかも

2966: 紅の薄染め衣浅らかに相見し人に恋ふるころかも

3703: 竹敷の宇敝可多山は紅の八しほの色になりにけるかも

4157: 紅の衣にほはし辟田川絶ゆることなく我れかへり見む

  追記    ◎芭蕉奥の細道』途次の「紅の句」
          眉掃を俤にして紅粉の花
         行末は誰が肌ふれむ紅の花
 紅花栽培の北限は秋田県東根北部であるが、この附近では4月上旬に種を蒔いた。「土用一つ咲き」と言って、7月中旬に咲き始めるのが普通であった。これに対し、山形付近では4月上旬に種をまいて、「半夏一つ咲き」と言って、7月上旬から咲き出すのが通例であった。一句目は東根附近で咲き初めの紅を眺めた時の句であり、二句目は山寺街道沿いに一面咲きほこった紅花畑を眺めた時の句か。