『源氏物語』の便器「大壷」

源氏物語」第26段「常夏」の巻には近江君という風変わりな女性が登場する。 
「大御大壷取りにも仕うまつりなむ(宮中のお便器取りにでもお仕えしましょう)」 (常夏)と恥ずかしげなく言うのはユニークな近江君(内大臣頭中将の外腹の娘)である。親兄弟の自慢できる女性ではない。ここではそのような作者の人物造形がうまいと言うべきか。 その他「樋洗(ひすまし)」=便器の掃除などをする下仕え」(常夏)がこの巻には出てくる。
 
【大壺】1 大きな壺。 2 溲瓶(しびん)や、おまるのこと。「夜中暁、大壷参らせなどし候ひし…」 (『宇治拾遺集』) 室内用便器。
 平安時代の貴族は、寝殿造の邸宅に住んでいた。寝殿造の建物にはトイレと呼べる特定の設備がなく、大便用には「樋筥」、小便用には「大壷」や「尿筒」という移動式の便器が用いられていた。これらが今日の「おまる」「おかわ」や「しびん」である。
 当時は御簾(すだれのようなも)で広い部屋の一部分を仕切り、その陰で用を足していた。また、「おまる」の中身は使用人が捨てていた。