塔和子さんの名詩「胸の泉に」

   胸の泉に         塔 和子
 
かかわらなければ
  この愛しさを知るすべはなかった
  この親しさは湧かなかった
  この大らかな依存の安らいは得られなかった
  この甘い思いや
  さびしい思いも知らなかった
人はかかわることからさまざまな思いを知る
  子は親とかかわり
  親は子とかかわることによって
  恋も友情も
  かかわることから始まって
かかわったが故に起こる
幸や不幸を
積み重ねて大きくなり
くり返すことで磨かれ
そして人は
人の間で思いを削り思いをふくらませ
生を綴る

ああ
何億の人がいようとも
かかわらなければ路傍の人
  私の胸の泉に
枯れ葉いちまいも
落としてはくれない
 
1929年に愛媛県で生まれる。1941年ハンセン病を発病。1943年大島青松園に入所。1957年ころから詩作を始め、1961年に初の詩集『はだかの木』を出版。1963年同人誌編集担当となる。1964年キリスト教の洗礼を受ける。1989年ドキュメンタリー作品『不明の花 塔和子の世界』(毎日放送)放映。2003年、ドキュメンタリー映画『風の舞』公開。(塔和子の詩をモチーフにハンセン病隔離の歴史と今を検証した映画)塔和子全集を含め2008年までに26冊の著書がある。