思い出の女「百人一首」
忘れえぬ女たちを詠う100首のうち30首
戦死せし教え子もあり島の子の我には妹のごとく思へり
二十四の瞳の権化と思ひしに脆くも崩れしあの日あのこと
島浦のこぼれ美島を教えられし文学少女才弾けたり
ほかほかの焼き芋くれしわけでない冬の渚に描きたる日よ
手紙全て風呂敷に包み返し来ぬ狂ひし娘病院抜けて
普通とは違う身の上と泣き言を言ひし娘を如何ともできず
無免許の二人乗りして島裏を馳せし昔の遥かなるかな
式の日に届きし手紙いかんともし難く処分したるや否や
焼身自殺する前の日に電話してびっくりするようなことほのめかす
兄の死をこよなくいとしみし師の我を慕ひしくれし妹よ汝
幸せの便り僅かに夫急死その後便りも途絶えたるかな
一人っ子育てる喜び励ましてやりし賀状もはるかなるかな
障害児持つこといつかほのめかしその後は一切そのこと触れず
障害の子に同情して決断もできぬすまなさ今も残れり
我が作品朗読放送してくれしテレビ出演共にしたれど
心から敬慕してくれしSS生卒業しても子を連れてくる
天性の天真爛漫そのままに悪びれもない円かなる性
その娘もらはむとせしこともありその後音沙汰なく消えてゆきし
てきぱきと才弾けたる娘にして灯台下暗し都会っ子となる
作詞せし師の楽曲を笑ひたり今は女医となり二人の子持ち
西行の伝説テーマに卒論はドクターコース助けてやりぬ
年齢のことなど考えず慕ひより子どもをあやすシングルマザー
教室の一番後ろで内職などせし寺山修司同窓生とか
満洲に父失ひし彼女らと慰霊訪問せし日を忘れず
一本の指にも触れざりストイックな初恋じみたあなたとの仲
一言も声かけることなく過ぎし終戦直後の同級生と
お花墨「貸して」「うん」と言った後「あの子好きや」と年上の女児
腐れ縁なくさばざといつにでも去るも別るも清しき自由
すれちがうばかりの定めどの人もあるものなれど過ちは一つ