山頭火の秀句
『山頭火の秀句 果てもない旅から』上田都史著
鉄鉢の中へも霰
分け入っても分け入っても青い山
うしろすがたのしぐれてゆくか
はなれてひとりのみのむしもひとり
ぼろきてすずしい一人が歩く
さくらさくらさくさくらちるさくら
秋兎死(あきとし)うたうてガザ咲いておくのほそみち
おもひおくはことないゆふべ芋の露はひらひら
沈み行く夜の底へ底へ時雨落つ
どうしやうもないわたしが歩いてゐる
松はみな枝垂れて南無観世音
越えてゆく山また山は冬の山
「俳句は現象を通じて思想なり観念なりを描き出さねばならないのである。自然人事の現象を刹那的に摂取した感動が俳句的律動として表現されなければならない」
つきぬ煩悩、果てもない旅、その荒涼たる哀歓から生まれた滴るような秀句。放浪・行乞というぎりぎりの生活の中から詠まれた数々の句の哀歓は、今も惻々として人間の人間への問いをもって語っている。