2016-08-16 バーチャル連句 俳祖・宗鑑 #俳句、川柳 バーチャル連句について 「バーチャル」とは、コンピュータ用語で「仮想の」という意味である。 連句を巻くのにブログ仲間の不遜こと晴生氏が「俳聖芭蕉」、私雅舟が「俳祖宗鑑」の役割で両吟を完成させた。捌・晴生氏。 かつて芭蕉は多くの俳人・弟子たちとの連句を残しているが、今回のような私たちの「バーチャル連句」は本邦初めてであるはずだ。次に、実作を紹介し、少し解説してみたい。 【バーチャル連句】 宗鑑・芭蕉両吟「かきつばた」の巻 起首 平成二十年五月十日 満尾 五月二十三日 発句 有難き姿拝まんかきつばた 翁 夏 脇 呑まんとすれば湧く岩清水 宗鑑 夏 第三 いざさらば句碑見にはやる心にて 芭蕉 雑 四 つんぬめりたる竹薮の径 鑑 雑 五 名月に街中めぐり酒びたり 蕉 秋月 六 初子授かる爽やかな風 鑑 秋 (初裏) 一 柿食えば奈良には古きお大仏 蕉 秋 二 稚児に向かいて太刀抜いて追う 鑑 雑恋 三 初恋のなまめく文のたどたどし 蕉 雑恋 四 器用貧乏となりの庵主 鑑 雑 五 池静かトトロが消える水の音 蕉 雑 六 反笠檜笠顔見合わせて 鑑 雑 七 鷹一つ夢見続けて一夜庵 蕉 冬 八 置き去りの月天に凍ゆる 鑑 冬月 九 ひろうして草臥れて翁うらめしや 蕉 雑 十 呪われぬ前経読むとせむ 鑑 雑 十一髪茫々容顔蒼し花見たし 不 春花 十二 春の酔夢の十穀聖 鑑 春 ナオ(名残の表) 一 松風のいかなる音色春ならん 鑑 春 二 山路越え来てすみれ草咲く 蕉 春 三 追ひつかん追ひつかんとす笈負ひて 鑑 雑 四 庵の柱に軽き瓢箪 蕉 雑 五 地獄へは落ちぬ祈りを歌に書く 鑑 雑 六 時雨の宿りこれが人生 蕉 冬 七 年忘れ嫗翁に額寄せ 鑑 冬恋 八 老いて盛んな超厚化粧 蕉 雑恋 九 山寺と聞けば懐かしかの聖 鑑 雑恋 十 里に出ぬ日は何時も色事 蕉 雑恋 十一さあ抜けと月下の閻魔に舌出して 鑑 秋月 十二 十王堂の御目に秋風 蕉 秋 ナウ(名残の裏) 一 ちと用があるような鴫飛び立てり 鑑 秋 二 はや秋十(と)とせ故郷遙かに 蕉 雑 三 忘れ果て帰す所なき放浪者 鑑 雑 四 老懶見据え雲仰ぎ見つ 不 雑 五 二ツ笠いづれワキシテ花吹雪 鑑 春花 挙句 かけめぐるものみなうららけし 蕉 春 連句は「座の文学」と言われ、複数の人が集まって、交互に五七五(長句)、七七(短句)を付けていく。前句から連想される状景を即かず離れず描くのである。 ここで、この発句は芭蕉翁の実際作っていたものである。この一句は芭蕉が宗鑑のことを詠んだ唯一の貴重な句になる。 句意は次のようである。「カキツバタが咲いていて、かつて宗鑑の痩せ姿を餓鬼つばたなどと戯れて詠んだ人もあるが、それは失礼であって、有り難い姿として拝みたいものだ」と宗鑑の面目を立てた芭蕉の思いの深さが伝わってくる。 脇句は発句に寄り添うように付けるのがよい。カキツバタは水辺の植物で、折よく岩清水の湧く所に水辺にめぐり合う。この句を刻んだ句碑は京都山崎辺りに建っている。 脇句以降は二人の創作ということになる。もちろん、晴生氏は芭蕉、私は宗鑑になったつもりで作ることになる。 以下、各句の典拠になった参考事項を略記しておく。 (参考) 第三 いざさらば雪見にころぶ所まで 芭蕉 (『花摘』) ☆貞享四年(一六八七)作。『阿羅野』・『笈の小文』では「いざ行(ゆか)む」の句形。 四 つんぬめりたる恋のみち(『新撰犬筑波集』) ☆かつて宗鑑は山崎に隠棲していたとき、竹薮の繁茂していたのを利用して竹の油筒を作り暮らしの糧にしていた。 五 名月や池をめぐりて夜もすがら 芭蕉(『孤松』) ☆貞享三年(一六八六)作。其角の『雑談集』にも収載されている。 六 三星になる酒のさかづき/七夕も子をもうけてや祝ふらん(『新撰犬筑波集』・付合〉 (後略) 七月十二日には、菊池寛記念文芸講座で「宗鑑と芭蕉」と題して講義をする予定になっている。その資料の一つとしてここに掲げた「バーチャル連句」を皆さんに披露するつもりである。そのためもあって、相手の晴生氏に回転を速くネット通信で協力してもらった。 数ヶ月前に知り合ったブログ仲間で、顔も知らない人であるが、この道に通じる方である。私はこれまで懇切丁寧に連句の作り方を教示してくれた人がいなかつた。 ふとした機縁で知り合ったブログの友である。経歴から見て、この人は自分の先生だと直感した。「両吟」という形式で、ずっと捌(連句進行・指南役)をしていただいている。 (再録)