酒の肴に「味噌」

 酒の肴(さかな)
「酒菜」から。もともと副食を「な」といい、「菜」「魚」「肴」の字を当てていた。酒のための「な(おかず)」という意味。「さかな」という音からは魚(うお)が想像されるが、「つまみ(あて)」になる食品であれば、肴と言える。
 日本におけるビールに枝豆などのように、酒類に応じて一定の組み合わせの食品が好まれる。ワインにチーズ、テキーラに食塩などが有名な組み合わせである。日本酒を飲む際には、一合枡の縁に塩を盛り、肴とすることもある。
 日本では西洋風のおつまみを指して「オードブル」と呼ぶことがあるが、本来は「前菜」を意味し、必ずしも肴として食前酒などと共に供されない。
 医学的には、食品を酒とともに摂取することは、飲酒の悪影響を軽減するために効果がある。空腹の状態での飲酒は急激に酔いが進むため健康によくないが、良質のたんぱく質を同時に摂取することで、アルコールの吸収が緩やかになるとされる。このくらいは酒飲みの常識。
  他人の噂話をして酒席を盛り上げることを指して「酒の肴にする」ともいう。
外国人を料亭に連れていくと最後に「そろそろお食事にしましょうか」と聞かれることで外国人はびっくりするという。(女将にとってはご飯と香の物と味噌汁のセットの意味なのだが)。そこから、日本の料理は、ごはんと味噌汁が出てくるまではすべて酒の肴であると言える。
 以上は世俗の話。古典では『徒然草』に味噌が肴として出され、それで結構という段章があることを知っているのは常識。
   第215段
 平宣時朝臣、老の後、昔語に、「最明寺入道、或宵の間に呼ばるる事ありしに、『やがて』と申しながら、直垂のなくてとかくせしほどに、また、使来りて、『直垂などの候はぬにや。夜なれば、異様なりとも、疾く』とありしかば、萎えたる直垂、うちうちのままにて罷りたりしに、銚子に土器取り添へて持て出でて、『この酒を独りたうべんがさうざうしければ、申しつるなり。肴こそなけれ、人は静まりぬらん、さりぬべき物やあると、いづくまでも求め給へ』とありしかば、紙燭さして、隅々を求めし程に、台所の棚に、小土器に【味噌】の少し附きたるを見出でて、『これぞ求め得て候ふ』と申ししかば、『事足りなん』とて、心よく数献に及びて、興に入られ侍りき。その世には、かくこそ侍りしか」と申されき。
 【味噌】が酒の肴の代りとして「事足りなん」と言っているのだから、これも酒肴としたことになる。この清貧の生き方が快い。「こんなものがアテになるか」と贅沢酒飲みには「爪の垢でも煎じて飲め」と言いたい。
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