「剣持源氏物語講座」受講生への推薦書

 ①『愛する源氏物語』 俵万智著  文春文庫
  先刻お馴染の女流歌人万智さんの『源氏物語』紹介文。三年間「文藝春秋」に連載した三十五編をまとめたもの。和歌は心の結晶、光源氏の下心、同時進行恋愛、紫の上の悲しみ、薫のはじまり、夫婦喧嘩も和歌で、匂宮の情熱、浮舟の心、このようなタイトルが目につく。自分の思いを遂げるためには、いい和歌を作って相手を落とさなければならない。物語の中の和歌を「小石のように飛び越えてしまうのではなく、氷砂糖をなめるように味わう」ことを勧める。795首の和歌を大切にする歌人らしい物語案内書であり、親しみ深く肩が凝らない物語論である。
 
 ②『平安時代の心で源氏物語を読む』 山本淳子著 朝日新聞出版
  光源氏の前半生…巻名・タイトルの付け方がおもしろい。「桐壺」後宮における天皇、きさきたちの愛し方、「帚木」十七歳の光源氏、人妻を盗む、「空?」秘密が筒抜けの豪邸・寝殿造、「夕顔」平安京ミステリーゾーン、「若紫」そもそも、源氏とは何者か? 「末摘花」恋の〝燃え度?を確かめ合う、後朝の文、「紅葉賀」暗躍する女房たち、「花宴」顔を見ない恋 、「葵」復讐に燃える、父と娘の怨霊タッグ、「賢木」祖先はセレブだった紫式部
 光源氏の晩年、没落、宇治十帖の章立てがあり、番外編「深く味はふ源氏物語」では、一条天皇中宮をヒロインモデルにした意味を説き、「定子の人生は理不尽に満ちている」と指摘する。平安社会の意識と記憶を知ることができ、過去の夢物語がよりリアルに感じられ、『源氏物語』の本当の面白さ、奥深さが見えてくる。
 
 ③『輝く日の宮』 丸谷才一 講談社文庫
 「輝く日の宮」が源氏物語』の巻名として在ったとする説。そのもつれで展開する丸谷才一独特の筆圧で書かれた文学論。これにはいくつかの説がある。 現在の桐壺の巻の異名。 現在の桐壺の巻の後半部分がかつて桐壺とは 別の巻であったころの巻名。 桐壺の巻のあとにかつて存在したが失われてしまったと ...
 源氏物語をめぐる十年ぶりの書き下し小説。美人国文学者が失われた源氏物語の一章の謎を解く。六章全て異なる形式、文体で描いてのけている。著作自体が、主人公の日常生活や恋愛を描く普通の小説である一方、「輝く日の宮」の存在を実証する小説形式の読み物でもあるという構造にもなっている。作者の古典、テクスト論や小説論に対する考え方が随所に散りばめられておりと、かなり高度な読み物として、ある程度のレベル以上の人に好まれるのだろう。