『源氏物語』における琴

      七月源氏物語講座は「篝火」…琴にこだわってみると   
 『源氏物語』における和琴の名手は頭の中将、柏木である。その他に紫の上が和琴を演奏する。箏の琴の名手は明石の入道である。彼は醍醐帝から伝授された人に習った。その他に紫の上、光源氏、明石中宮が箏の琴を演奏する。
 
  「篝火」末尾   晶子源氏訳
 源氏が 御簾から出る時に、東の対のほうに 上手な笛が十三 絃の琴に合わせて鳴っているのが聞こえた。それは始終中将といっしょに遊んでいる 公達のすさびであった。
「 頭中将に違いない。上手な笛の音だ」
 こう言って源氏はそのままとどまってしまったのである。東の対へ人をやって、
「今こちらにいます。篝の明りの涼しいのに引き止められてです」
 と言わせると三人の公達がこちらへ来た。
「風の音秋になりにけりと聞こえる笛が私をそそのかした」
 琴を中から出させてなつかしいふうに源氏は 弾いた。源中将は 盤渉調に笛を吹いた。頭中将は晴れがましがって合奏の中へはいろうとしないのを見て、
「おそいね」と源氏は促した。弟の弁の少将が拍子を打ち出して、低音に歌い始めた声が鈴虫の音のようであった。二度繰り返して歌わせたあとで、源氏は 和琴を頭中将へ譲った。名手である父の大臣にもあまり劣らず中将は巧妙に弾いた。
「御簾の中に琴の音をよく聞き分ける人がいるはずなのです。今夜は私への杯はあまりささないようにしてほしい。青春を失った者は酔い泣きといっしょに過去の追憶が多くなって取り乱すことになるだろうから」
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