本日の源氏物語講座は「常夏」

  「常夏」の一般的用法
一年中が夏であること。常に夏のような気候であること。
セキチクの変種。多くの品種があり、花は濃紅色のほか、白色や絞りなど。名は、春から秋にかけて咲きつづけることに由来。(季・夏)
(かさね)の色目の名。
《夏から秋にかけて咲くところから》ナデシコの古名。(季語「撫子」は秋)
   なでしこの花をだに見ばことなしに過す月日も短かかりなむ(『後撰』夏)
 
 『源氏物語第26巻「常夏」。光源氏、36歳。源氏は玉鬘に心をひかれ、内大臣は近江君を探し出す。 ここで「常夏」は、唐撫子のことである。
 盛夏の六条院で、釣殿で涼んでいた源氏は夕霧を訪ねてきた内大臣家の子息たちに、最近新しく迎えられた落胤の姫君(近江の君)のことを尋ねる。玉鬘を探していた内大臣だったが、代りに見つかったという近江の君の芳しからぬ噂を源氏も知っている。
 一方、内大臣は夏の暑い盛りに単衣を羽織ってうたた寝していた姿に「はしたない」と説教する。またあまりに姫君らしくない近江の君の処遇に思い悩む。そこで長女弘徽殿女御の元に行儀見習いへ出すことを決めたが、女御へ贈られた文も和歌も支離滅裂な出来で、女房たちの失笑を買う。
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炎暑の日に源氏は東の 釣殿 ( つりどの ) へ出て涼んでいた。子息の中将が侍しているほかに、親しい殿上役人も数人席にいた。 桂 ( かつら ) 川の 鮎 ( あゆ ) 、 加茂 ( かも ) 川の 石臥 ( いしぶし ) などというような魚を見る前で調理させて賞味するのであったが、例のようにまた内大臣の子息たちが中将を 訪 ( たず ) ねて来た。
「寂しく退屈な気がして眠かった時によくおいでになった」
 と源氏は言って酒を勧めた。氷の水、 水飯 ( すいはん ) などを若い人は皆大騒ぎして食べた。風はよく吹き通すのであるが、晴れた空が西日になるころには 蝉 ( せみ ) の声などからも苦しい熱が 撒 ( ま ) かれる気がするほど暑気が堪えがたくなった。
「水の上の価値が少しもわからない暑さだ。私はこんなふうにして失礼する」
 源氏はこう言って 身体 ( からだ ) を横たえた。
「こんなころは音楽を聞こうという気にもならないし、さてまた退屈だし、困りますね。お勤めに出る人たちはたまらないでしょうね。帯も 紐 ( ひも ) も解かれないのだからね。私の所だけででも 几帳面 ( きちょうめん ) にせずに気楽なふうになって、世間話でもしたらどうですか。何か珍しいことで 睡気 ( ねむけ ) のさめるような話はありませんか。なんだかもう 老人 ( としより ) になってしまった気がして世間のこともまったく知らずにいますよ」
 などと源氏は言うが、新しい事実として話し出すような問題もなくて、皆かしこまったふうで、涼しい高欄に背を押しつけたまま黙っていた。
「どうしてだれが私に言ったことかも覚えていないのだが、あなたのほうの大臣がこのごろほかでお生まれになったお嬢さんを引き取って大事がっておいでになるということを聞きましたがほんとうですか」
 と源氏は 弁 ( べん ) の少将に問うた。