無題(二十)
花の名前はなかなか覚えられない。人から聞かれてすぐ答えられないのは恥に思う。デートしているとき、野辺に咲く何げない花の名を聞かれて、すぐ答えられないと気まずくなる。卒業していく子が校庭の隅に楚々と咲いていた花の名を聞かれたことがある。
「この頃よく見る花だな。外来種でしょうが…」
こんな返答ではつまらない。
「マツバウンランですよ」とさっと答えられなかったのだった。
荒地なんかにポツリポツリとか細い茎に紫の小さな鈴のような花を咲かせる。
「雲闌」の一種で、松葉が上につく「松葉雲闌」…松葉雲蘭を見るたびに、その日の無念さとともに彼女のことを思い出す。
卒業以来あったことはない。近畿の方で放送関係の仕事をしていると聞くが、その後こちらには音沙汰もない。
楚々と咲く花こそよけれ 人もまた (雅)