無題(十四)

 どういう題名でしたか、「耳には行行子 頬にはひかり」というフレーズが最後にくる草野心平の詩が思い出されます。最近、野辺に出ると、ちょっとした川辺の草むらに「ギョギョシ、〃 〃」と葦切りの鋭くけたたましい鳴き声がします。
 新任の小豆島で三年目、現代国語一年生の教科書に出ていました。授業では「うまごやしの花環」を作って「縄跳び」のまねをしたものですから、大変うけたように思います。
 うけねらいをする授業のささやかな工夫を軽蔑する同僚はいますが、気にしないのがよろしいでしょう。
 
   「作品第肆」
川面(かわづら)に春の光はまぶしく溢れ
そよ風が吹けば光たちの鬼ごっこ
葦の葉のささやき 葦の葉のささやき
行行子(よしきり)は鳴く
行行子の舌にも春のひかり

土堤(どてい)の下のうまごやしの原に
自分の顔は両掌のなかに
ふりそそぐ春の光に
却って物憂く眺めていた
ふりそそぐ春の光に
却って物憂く眺めていた

少女たちはうまごやしの花を摘んでは
巧みな手さばきで花環をつくる
それをなはにして縄跳びをする
花環が圓を描くとそのなかに富士がはひる
その度に富士は近づき とほくに座る

耳には行行子
頬にはひかり