勝 つ

  ロンドン五輪が終わった。(実は最終日) 日本のメダル数は予想以上の過去最高だった。金の優勝者は全勝だが、銀・銅のメダリストは、一~二度負けている。それでもほとんど勝ち続けてきた経歴の持ち主だ。全て勝つことに全精力を注いできたつわもの達だ。自分の限界まで頑張り、精進した人たちの「勝つ」ことへの妄執をどうして批判できよう。自分を甘やかさず、持てる力を遺憾なく発揮したかどうかは、他者との比較・競争でなければ、その実態を評価できない。勝ちにこだわることは、飽くなき限界への血みどろの挑戦がなければならない。自己新や日本新でも世界の壁は厚く、メダル争いに加われなかった多くの人たちをまざまざと見て取っている。「初戦敗退」という汚名さえ着せられる。地元の声援に応えられず、無念の涙を流し、すごすごと帰ってくる人の多いことよ。「頑張ったんだ。胸を張って帰ってこい」「ご苦労さんといってやりたい」と慰めごとを言われても、そんなになれない敗者たちの心中を思う。頂点に立つものは一人。その背後に数限りない敗者が山積みされている。その人たちが全て敗北者だという意識は、これはあまりにも特権意識が強すぎる。何でも一番でなければ気がすまない、負け犬ではありたくないという人がいる。
 四年に一度のスホーツの祭典・オリンピック。今年二〇一二年、第三十回ロンドン五輪が終わった。
 近代五輪の父、クーベルタンが語ったとされる「オリンピックは参加することに意義がある」との言葉は、あまりにも有名である。
 1908年の第4回大会は今から104年前、ロンドンで開催されたが、イギリスとアメリカは国民感情のもつれから、競技場でむき出しのけんかを続けたという。
 アメリカのペンシルベニアから来ていたエチェルバート・タルボット司教が「この五輪で重要なことは、勝利することより、むしろ、参加したことにあろう」と説教した。
 会長は「ペンシルベニアの司教が『五輪大会で重要なことは、勝つことではなく、参加することである』と述べられたのは、まことに至言である。人生において重要なことは、成功することでなく、努力することである」と、司教の言葉を引用して演説した。
 その後<クーベルタンの言葉>として一般にも知られるようになり、「オリンピックの理想」とも言われるようになった。
 勝敗は忘れて、オリンピックに参加した人たちよ、元気で帰ってこいよ。