『古事記』の「月経(つきのさわり)」

 
 『古事記』中巻「倭健命」(景行天皇の条)にはミヤズヒメの「月経(つきのさわり)」が記されている。
 
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 爾美夜受比賣其於 意須比之襴 意須比著月經 故見其月經 
 「月経」は「つきのさはり」と訓む。「おすひ(襲=上着)の裾に「つきのさわり」が付着。
 
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      歌謡の最終句に
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       後世『風雅』和歌集にも「月のさはり」と表現されている。
 
 意須比能須蘇爾 都紀多知邇祁理
 (おすひのすそに つきたちにけり)
 
爾美夜受比賣答 御歌 曰
 多迦比迦流 比能美古
 夜須美斯志 和賀意富岐美
 阿良多麻能 登斯賀岐布禮婆
 阿良多麻能 都紀波岐閇由久
 宇倍那宇倍那 岐美麻知賀多爾
 和賀祁勢流
 意須比能須蘇爾 都紀多多那牟余
  (おすひのすそに つきたたなむや)
 ここに美夜受比賈、それ襲 襴に、月経著きたりき。故、その月経を見て御歌読みし たまひしく、
 ひさかたの 天の香具山 利鎌に さ渡る鵠
 弱細 手弱腕を 枕かむとは 我はすれど さ寝むとは 我は思へど
 汝が著せる 襲の裾に 月立ちにけり
 とうたひたまひき。ここに美夜受比賈、御歌に答へて曰ひしく、
 高光る 日の御子 やすみしし 我が大君 
 あらたまの 年が来経れば 
 あらたまの 月は来経往く 
 諾な諾な諾な 君待ち難に
 我が著せる 襲の裾に 月経たなむよ
 といひき。故ここに御合したまひて、その御刀の草薙剱を、その美夜受比賈の許に置 きて、伊吹の山の神を取りに幸行でましき。
 
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    万葉集の「月立てり」もこのことを込めているかもしれない。