『酒中華』の先生

      歌集『酒中華』  横山俊男著   新星書房 昭和46年刊
「酒の中から咲いた華」が象徴するような歌人。情熱溢れる母校国語教師であった。「地平線」創刊以来の作品446首(昭和40~46年)所収。前登志夫の序文「述志の歌」で「真実を通すを文学の道とすと説き行ひて職を逐はるる」をはじめ16首を挙げ、「血の滴る直情の歌一巻」と評している。
   うらなげき深き心に音たてて樟は古葉をふるひつつあり
   触れあひて風鳴る音す枯山のなだりに聴けば幽かなれども  
   優柔の心断つべし透明の矛なして我を指す氷柱群
   常住は闇に怒りの瞳を凝らしいまさむ神をまさ目に仰ぐ
   わがめぐり襲ひ来てごうと鳴る風に曝されて力積まむと思ふ
 〔追憶〕 母校観一に転任、情熱ある国語中年教師時代、昭和30年度三年担任だった恩師。進路指導は生徒個人に適切な指導をした。進学校の名誉のため有名校に押し込むやり方には外れていたかと思う。叱りつけることもなく、ゆるぎたるぎがあって、「見逃してくれてありがとうございました」という思い出もある。やんぬるかな、知性より感性、抑えがたい情炎に故郷を追われた。これ以上のことは語らない方がいいだろう。