旅に病で夢は枯野をかけ廻る
芭蕉は、元禄7年9月29日夜から下痢を発病し、病床につく。10月5日、之道亭から
南久太郎町御堂前の花屋仁右衛門宅離れ座敷に移った。10月8日深更、呑舟に墨をすらせ、この句をしたためた。
「ただ壁をへだてて命運を祈る声の耳に入りけるにや、心細き夢のさめたるはとて、旅に病で夢は枯野をかけ廻る。また、枯野を廻るゆめ心、ともせばやともうされしが、是さへ妄執ながら風雅の上に死ぬ身の道を切に思ふ也、と悔まれし。八日の夜の吟なり」 『枯尾花』
前詞に「病中吟」とあるとおりこれは
芭蕉の辞世ではなく、あくまでも生前最後の句に過ぎない。