森川義信 「勾配」
名詩 森川義信「勾配」
誰も住まなくなった義信生家には詩碑と椿があるのみ
勾 配
森川義信
非望のきはみ
非望のいのち
はげしく一つのものに向かって
誰がこの階段をおりていったのか
時空をこえて屹立する地平をのぞんで
そこに立てば
かきむしるように悲風はつんざき
季節はすでに終わりであった
たかだかと欲望の精神に
はたして時は
噴水や花を象眼し
光彩の地平をもちあげたか
清純なものばかりを打ちくだいて
なにゆゑにここまで来たのか
だがみよ
きびしく勾配に根をささへ
ふとした流れの凹みから雑草のかげから
いくつもの道ははじまってゐるのだ
わずか十八行の短詩であるが、ままならぬ青春の心の傾斜がはるかな地平と交叉して、「非望のきはみ」にはじまる道を見出す痛ましさが感動を呼ぶ。昭和十四年(二十二歳)の作。三年後の昭和十七年八月十三日(二十五歳)ビルマのミートキーナで戦病死する。この詩は観音寺市粟井町本庄の生家前に詩碑として刻まれている。
鮎川信夫編『増補森川義信詩集』(平成三年一月十日国文社発行)は唯一の遺稿詩集で、現代詩の原点を築いた森川義信の決定版詩集である。また、鮎川信夫著『失われた街』(昭和五十七年十二月十日思潮社発行)は親友による森川義信伝。
非望のきはみ
非望のいのち
はげしく一つのものに向かって
誰がこの階段をおりていったのか
時空をこえて屹立する地平をのぞんで
そこに立てば
かきむしるように悲風はつんざき
季節はすでに終わりであった
たかだかと欲望の精神に
はたして時は
噴水や花を象眼し
光彩の地平をもちあげたか
清純なものばかりを打ちくだいて
なにゆゑにここまで来たのか
だがみよ
きびしく勾配に根をささへ
ふとした流れの凹みから雑草のかげから
いくつもの道ははじまってゐるのだ
わずか十八行の短詩であるが、ままならぬ青春の心の傾斜がはるかな地平と交叉して、「非望のきはみ」にはじまる道を見出す痛ましさが感動を呼ぶ。昭和十四年(二十二歳)の作。三年後の昭和十七年八月十三日(二十五歳)ビルマのミートキーナで戦病死する。この詩は観音寺市粟井町本庄の生家前に詩碑として刻まれている。
鮎川信夫編『増補森川義信詩集』(平成三年一月十日国文社発行)は唯一の遺稿詩集で、現代詩の原点を築いた森川義信の決定版詩集である。また、鮎川信夫著『失われた街』(昭和五十七年十二月十日思潮社発行)は親友による森川義信伝。