今月の源氏物語講座は「浮舟」

   第五十一帖「浮舟」
 巻名は、次の歌にちなむ。薫の庇護を受けていた女が匂宮に連れ出されい宇治川対岸の隠れ家へ向かう途中に詠んだ和歌「橘の小島の色はかはらじをこのうき舟ぞゆくへ知られぬ」(橘の茂る小島の色のようにあなたの心は変わらないかも知れないけれど、水に浮く小舟のような私の身は不安定でどこへ漂ってゆくかも知れません)
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「これが 橘の小嶋でございます」
 と言い、船のしばらくとどめられた所を御覧になると、大きい岩のような形に見えて 常磐木のおもしろい姿に繁茂した嶋が倒影もつくっていた。
「あれを御覧なさい。川の中にあってはかなくは見えますが千年の命のある緑が深いではありませんか」
 とお言いになり、
年 経とも変はらんものか橘の小嶋の 崎に契るこころは
 とお告げになった。女も珍しい楽しい 路のような気がして、
橘の小嶋は色も変はらじをこの浮舟ぞ行くへ知られぬ
こんなお返辞をした。月夜の美と恋人の艶な容姿が添って、宇治川にこんな趣があったかと宮は 恍惚しておいでになった。
 対岸に着いた時、船からお上がりになるのに、 浮舟の姫君を人に抱かせることは心苦しくて、宮が御自身でおかかえになり、そしてまた人が横から宮のお 身体をささえて行くのであった。見苦しいことをあそばすものである、 何人をこれほどにも大騒ぎあそばすのであろうと従者たちはながめた。 (晶子源氏による)