今月の源氏物語講座は「匂宮」

      光源氏の「光」から 薫・匂宮の「香」へ 『源氏物語』の主軸・トーンが変わる。
   後編、第三部が始まるのが、この「匂兵部卿宮」の巻である。
   源氏の孫である匂宮、実子ではない子薫がライバルとしてと時めく。  
 
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          『源氏物語』巻42 「匂(兵部卿)宮」
 「」から八年後、薫14歳から20歳までの話。
 光源氏亡き後、その面影を継ぐ人はいなかった。ただわずかに今上帝の三の宮(匂宮)と女三宮腹の若君(、実は柏木の子)が当代きっての貴公子との評判が高い。
 匂宮は元服して〈兵部卿〉となり、紫の上の二条院を里邸としている。夕霧は匂宮を婿にと望みもするが、自由な恋愛を好む当人にはその気がない。その夕霧は、落葉の宮六条院の夏の町に迎え、三条殿に住まう雲居の雁のもとと一日交代に月に十五日ずつ律儀に通っている。夕霧は娘の中で一番美人と誉れ高い典侍腹の六の君を、落葉の宮に預けて教養の豊かな女性に育てようとしている。
 六条院は、今は明石の中宮の子たちの大半が住んでいる。夏の町に住んでいた花散里は二条院の東の院へ、女三宮は三条宮へそれぞれ移っていく……
 
  与謝野晶子訳 「匂宮」
  光君がおかくれになったあとに、そのすぐれた 美貌を継ぐと見える人は多くの遺族の中にも求めることが困難であった。院の陛下はおそれおおくて数に引きたてまつるべきでない。今の 帝の第三の宮と、同じ六条院で成長した 朱雀院の 女三の宮の若君の 二人がとりどりに美貌の名を取っておいでになって、実際すぐれた貴公子でおありになったが、光源氏がそうであったようにまばゆいほどの美男というのではないようである。ただ普通の人としてはまことにりっぱで 艶な姿の備わっている方たちである上に、あらゆる条件のそろった身分でおありになることも、光源氏にやや過ぎていて、人々の尊敬している心が実質以上に美なる人、すぐれた人にする傾向があった。紫夫人が特に愛してお育てした方であったから、三の宮は二条の院に住んでおいでになるのである。むろん東宮は特別な方として御大切にあそばすのであるが、帝もお 后もこの三の宮を非常にお愛しになって、御所の中へお 住居の御殿も持たせておありになるが、宮はそれよりも気楽な自邸の生活をお喜びになって、二条の院におおかたはおいでになるのであった。御元服後は三の宮を【 兵部卿の宮】と申し上げるのであった。