光源氏と玉鬘、琴を枕に共寝

        光源氏と琴 (「篝火」の巻)
 秋にもなった。風が涼しく吹いて身にしむ思いのそそられる時であるから、恋しい玉鬘の所へ源氏は始終来て、一日をそこで暮らすようなことがあった。【琴】を教えたりもしていた。五、六日ごろの夕月は早く落ちてしまって、涼しい色の曇った空のもとでは 荻 ( ) の葉が哀れに鳴っていた。【琴】を 枕 ( ) にして源氏と玉鬘とは並んで 仮寝 ( ) をしていた。こんなみじめな境地はないであろうと源氏は 歎息 ( ) をしながら夜ふかしをしていたが、人が怪しむことをはばかって帰って行こうとして、前の庭の〔 篝 ( ) 火〕 が少し消えかかっているのを、ついて来ていた 右近衛 ( ) の 丞 ( ) に命じてさらに燃やさせた。涼しい流れの所におもしろい形で広がった 檀 ( ) (まゆみ) の木の下に美しい〔篝火〕は燃え始めたのである。座敷の方へはちょうど涼しいほどの明りがさして、女の美しさが浮き出して見えた。髪の手ざわりの冷たいことなども 艶 ( ) な気がして、恥ずかしそうにしている様子が 可憐 ( ) であった源氏は立ち去る気になれないのである。
イメージ 3
イメージ 1
イメージ 2
イメージ 4