無題(十六)

 
 二十九歳の母と四歳の子が餓死していたのが発見された。「何も食べさせられなくてごめんね」という書き置きがあった。電気も水道も止められていたらしい。
 飽食の日本人よ、よく考えてみよ。食材、食文化などと平気で言える現代日本人が恥ずかしいと思わないか。世界に何億という飢餓で苦しむ国々に援助の手を差し伸べているか。訴えかけだけで、実際に寄付金をどれほど送り届けているだろうか。
 さてまた、思い起こすのは、満洲開拓団が彼の地で飢餓と寒冷の責め苦で犬死にしていったことだ。僕だけは生き残って帰国できたが、父も母も姉も彼の地に斃れ果て、故国に再び帰り着くことができなかった。侵略者の自業自得として、憐れんでももらえないのであろうか。
 冒頭の母子はつい昨日の事件である。シングルマザーでも生活保護を受けるなりして、活きられる道はあったはずだが、どうしたのだろう。