開戦時、あなたはどこにいましたか?

 
 昭和16年12月8日、あなたはどこにいましたか?
 この世に存在していたならば、それをお知らせください。
 ここに一人の男がありました。「死んだ男」です。
 鮎川信夫に「死んだ男」という名詩に詠まれた男
 詩中では「M」と呼ばれた、実名森川義信を紹介しておきましょう。
 
 彼はこの時、仏印(仏領土印度支那、今のベトナム)を行軍中でした。
 歩兵第百十二聯隊(楯八四一五部隊)の一員として出征する途中です。
 何も知らされずに善通寺五十五師団下に属する一兵卒です。
 
 8日未明、短波ラジオが流れていた。
 …帝国陸海軍は本日未明、西太平洋において米英軍と戦闘状態に入れり…
 何も知らされず(ビルマに向かって)行軍している目的がやっと分かってくる。
 戦場に向かって進軍していることが実感をもって迫ってくるのだった。
 英国軍が西の方からビルマに攻めこんでくることを察知して派遣される
 この軍の使命がやっと見えてくる隊員たちだった。
 非常呼集の命が下る。
 「遂に我が国は米英に対し宣戦を布告し、海軍部隊は真珠湾を奇襲攻撃し、これを占 領した。我々も今後重要な任務に就く。日本帝国軍人として恥じない行為をせよ」
 そしてタイからビルマに入り、英国軍と戦うことになる。
 森川義信は翌年8月13日、ビルマミートキーナで戦病死する。25歳であった。