啄木の病の歌で心惹かれるもの

 
     周知のごとく、啄木は短歌三行書き。
 
   『一握の砂』より〈病・命〉の歌
 
   死にし児の
   胸に注射の針を刺す
   医者の手もとにあつまる心    (6人)
 
   かなしくも
   夜明くるまでも残りゐぬ
   息きれし児の肌のぬくもり   (6人)
 
 
  『悲しき玩具』より〈病・命〉の歌
 
    呼吸すれば、
    胸の中にて鳴る音あり。
     凩よりもさびしきその音!     (1人)
 
    そんならば生命が欲しくないのかと、
    医者に言はれて、
    だまりし心!          (3人)
 
       夜おそく何処やら室の騒がしきは
    人や死にたらむと、
    息をひそむる。           (2人)
 
    脈をとる看護婦の手の、
    あたたかき日あり、
    つめたく堅き日もあり。     (1人) 
        
    思ふこと盗みきかるるごとくにて、
    つと胸を引きぬー
    聴診器より。                 (3人)
 
    看護婦の徹夜するまで、
    わが病ひ、
    わるくなれとも、ひそかに願へる。 (1人)
 
    医者の顔色をぢつと見し外に
    何も見ざりきー
     胸の痛み募る日。             (2人)
 
    脈をとる手のふるひこそ
    かなしけれー 
    医者に叱られし若き看護婦!   (4人)
 
     今日もまた胸に痛みあり。
      死ぬならば、
      ふるさとに行きて死なむと思ふ      (2人)
 
     やまひ癒えず、
    死なず、
     日毎にこころのみ険しくなれる七八月かな。  (2人)
 
     (注)  ( )内の人数は、准看学生20人の選歌です。
      本日4月26日(木)国語の授業の後で、心惹かれる歌を選ばせました。