桜を古歌に見る日本人の精神史『花のかたち』

 
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 中西進著『花のかたち 日本人と桜』(角川書店)
  桜 その連綿する美の心象
 古典、特に古歌に詠まれた桜を取り出し、そこに日本人の美意識の変遷をたどる。『日本書紀』にすでに「花ぐはし桜の愛で」と女の盛りの美しさを桜の美しさと重ね、そのたまゆらにすぎないことを嘆く。平安王朝美『源氏物語』のヒロイン紫の上は落花のまぎれに登場する。源氏に「花の姿」を見て迷う藤壺との宿世。
『仏教の花と言えば蓮であるが、西行は法師でありながら「ほとけには桜の花をたてまつれ」と詠む。時代が下り宣長は「敷島の大和心」を山桜に見る。
 明治になって山川登美子は「桜散る音と胸うつ血の脈」の似通う微妙を詠う。大正期に牧水は「笑みかたむける山ざくら花」と男歌を詠ずる。更に時代は下り昭和の馬場あき子は時間への浮遊とて「一心に押し来る力あるごとく」とその内奥をとらえる。
 桜吹雪は極美のもの、畏怖に満ちた神秘体験。真の美は畏れを抱かせる。
 桜を透して見た日本人の美意識、その精神史の粋を本書に深読することができる。