奥の細道「尿前の関」

   奥の細道24     尿前の関
    :元禄2年5月15日 岩手の里(宮城県大崎市岩出山)泊  
  南部道遥にみやりて、岩手の里に泊る。小黒崎みづの小嶋を過て、なるこの湯より、尿前の関にかゝりて、出羽の国に越んとす。此路旅人稀なる所なれば、関守にあやしめられて、漸として関をこす。大山をのぼつて日既暮ければ、【封人の家】を見かけて舎を求む。        
三日風雨あれて、よしなき山中に逗留す。      16日大雨、堺田に二泊しかしていない (曾良日記)
   蚤虱馬の尿する枕もと   尿「バリ」「シト」二説あり。
  あるじの云、是より出羽の国に大山を隔て、道さだかならざれば、道しるべの人を頼て越べきよしを申。さらばと云て人を頼侍れば、究境の若者反脇指をよこたえ、樫の杖を携て、我我が先に立て行。けふこそ必あやうきめにもあふべき日なれと、辛き思ひをなして後について行。あるじの云にたがはず、高山森〃として一鳥声きかず、木の下闇茂りあひて夜る行がごとし。雲端につちふる心地して、篠の中踏分踏分、水をわたり岩に蹶て、肌につめたき汗を流して、最上の庄に出づ。かの案内せしおのこの云やう、此みち必不用の事有。恙なうをくりまいらせて、仕合したりと、よろこびてわかれぬ。跡に聞てさへ胸とゞろくのみ也。
 〔封人の家〕 山形県最上郡最上町堺田。国境の番人の家。
 〔尿〕小児の尿(イバリ)を奥羽にてシトという。 嫌がられるものばかりを並べ立てているものの、卑俗を越えて、ユーモア・おかしみがあってかえって好感が持てる。『奥の細道』のクライマックスとして高く評価する見方もある。
  かつて俳諧師宗鑑が編集した『犬菟玖波集』巻頭の短連歌に 先行作品はある。 
        霞の衣すそはぬれけり  佐保姫の春立ちながらしとをして