郷愁の詩人蕪村




 

  北壽老仙をいたむ    与 謝 蕪 村
君あしたに去ぬゆふべのこゝろ千々
ぞはるかなる
君をおもふて岡のべに行
つ遊ぶ
をかのべ何ぞかくかなしき
蒲公
の黄に薺のしろう咲たる
見る人ぞなき
雉子
のあるかひたなきに鳴を聞
友ありき河をへだてゝ住
にき
へげのけぶりのはと打
ちれば西吹風
はげしくて小竹原
すげはら
のがるべきかたぞなき
友ありき河をへだてゝ住にきけふは
ほろゝともなかぬ
君あしたに去ぬゆふべのこゝろ千々に
何ぞはるかなる
我庵
のあみだ仏ともし火もものせず
花もまいらせずすごすごと彳
める今宵は
ことにたうとき          釋蕪村百拜書
 

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『郷愁の詩人与謝蕪村』 萩原朔太郎
「君あしたに去りぬ。ゆうべの心ちぢに何ぞ遥かなる……」の詩を引用し、作者の名をかくしてこれを明治の新体詩人の作といっても人は決して怪しまないだろう、と本書の冒頭で述べている。蕪村をいち早く認めたのは子規だが、郷愁の詩人として、蕪村の中にみずみずしい浪漫性を見出したのが朔太郎(1886~1942)であった。