日本の近現代小説は、この国土の中にどんな
胎盤をもっているのか。名作の舞台を訪ね、風土と作品との深奥の契約を読み解く。取りあげた小説のあらすじ、著者略歴、小説の舞台へのアクセスを示す。
川端康成の『雪国』にしても、冒頭の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の次に「夜の底が白くなった」という一節をもつことによって、『雪国』は地誌と区別される。風景が白と黒の鯨幕となって、枠組みの喪章となるからである。はたして日本列島は、どこにどのような魂を記憶していて、どのような文学を胚胎してきたのであろう。