時 元禄五年暮~六年初め 五十歳頃
同行者 ?
序 詞
もしもこの小説が書けなければ、イマジネーションの貧困な
郷土史家と同類だ。
ひそかに作家魂の矜持をもつ者としては、思い切りここで羽ばたかねばならない。
誠に無謀、浅はかな試みながら史実に背いて、
芭蕉を讃岐に連れてくる。連行、または誘拐に類する犯罪だ。まさに荒唐無稽、根も葉もない
絵空事、
嘘八百、精一杯愚弄のことばを吐きかけてくれればいい。その方がかえってリラックスして、自分の自然体でものが書ける。萎縮したものばかりを書き続けた数十年。すべてがむなしかったと言っていいほど、これからのめり込む
芭蕉魔からは逃げ出せない雰囲気がもう漂ってきている。転げ出した「
芭蕉坂」は幾変転するだろう。それは自分の知ったことではない。転げ落ちるものならば、「はせを」の血の底に沈まば沈め。それも父霊の禍と甘受しよう。