芭蕉讃岐行

     幻想『芭蕉讃岐行』   来たはずのない芭蕉翁の幻視行 
 
   時  元禄五年暮~六年初め 五十歳頃
   所  讃岐の国 高松(古戦場屋島)→坂出(崇徳院白峯陵)→丸亀(城)→善通寺      (空海西行庵)→琴平(金毘羅参詣)→観音寺(宗鑑一夜庵)→大野原(近江      出身平田家・俳諧)
   同行者 ?
 
      序 詞
 もしもこの小説が書けなければ、イマジネーションの貧困な郷土史家と同類だ。
ひそかに作家魂の矜持をもつ者としては、思い切りここで羽ばたかねばならない。
誠に無謀、浅はかな試みながら史実に背いて、芭蕉を讃岐に連れてくる。連行、または誘拐に類する犯罪だ。まさに荒唐無稽、根も葉もない絵空事嘘八百、精一杯愚弄のことばを吐きかけてくれればいい。その方がかえってリラックスして、自分の自然体でものが書ける。萎縮したものばかりを書き続けた数十年。すべてがむなしかったと言っていいほど、これからのめり込む芭蕉魔からは逃げ出せない雰囲気がもう漂ってきている。転げ出した「芭蕉坂」は幾変転するだろう。それは自分の知ったことではない。転げ落ちるものならば、「はせを」の血の底に沈まば沈め。それも父霊の禍と甘受しよう。