野菊の如き君なりき


  二十二歳だった僕
 彼女は十六歳だった
  高松ヘ船で行ったついでに
  仏生山の菊人形をいっしょに見に行った
  心の通いあったのはその時
 
  菊人形はすばらしいものですね
 仲間にそう言っても同感してくれる人はいなかった
 それでいっそう菊人形は二人だけの秘め事になる

 島に帰り同じ学校に生活する
 あれこれのことは許されざる間柄だったから
 それはそれは波風の立たない日常だった

 それでも 島の秋を探勝するため
 誰にも知られず岬をめぐり
 野菊を求めて丘の辺を散策した

 彼女が私生児であることを
 僕は知らなかった 
 僕たちのことを知った宿主が
 深入りしない方がいいですよと
 他の病気のことにも触れて
 意見してくれた

 そんなことでピュアな心に
 罅が入るわけはなかったのだが
 そしてそんなことは僕の良心が
 決して許さないことだったのだが
  
 
 
  時の流れが二人を別々に
 逸れさせていった

 半世紀が経っても
 年賀状だけは一回も欠かさず
 淡々と 脈々と来る
 こちらも出す

 それが今年でぷっつり来ない
 間違いなくご不幸があったに違いない
 二十四の瞳の島とはこれで
 縁が切れたという気がする