遍路哀話

 
 お接待、それはお遍路さんへのおもてなし。お茶菓子をあげて労を慰めてあげる無償の行為。遍路宿には無賃の場合もある。修行者の行脚というほどでない、一般庶民のごく普通に行われる民俗風習。その間には様々な世の中の哀話を知ることになる。

 養母すみ儀、拾壱才の私幷三才の実子を相連れ、都合三人宿元を立ち出で、松尾坂口御番所を通り、与州宇和島御領ゟ、札所巡拝仕り、同国松山御領太田郡桜井村と申す所へ参り候処、幼少の弟、風と熱気強く御座候。四国辺路の内、医業功なる者御座候に付き、為に見候処、痘熱の趣申し候得共、旅人の義、殊に路銭等も御座無く、日々托鉢仕り、日々托鉢仕り、口過ぎ等仕る義に付き、調薬等も得給申さず、その夜母儀抱臥し少々眠り候内、乳を呑みながら、空しく相成り、誠に不憫至極に存じ候得共、詮方御座無く葬方等仕り、夫れより同所出で仕候。

 このような四国遍路の一人哥吉なる者の哀話を知ることにもなった。